裁判例解説

アバターの演者に対する誹謗中傷(Vtuberやメタバースの利用者の事例)

アバターの演者に対する誹謗中傷(Vtuberやメタバースの利用者の事例)

先月、アバターに扮して配信を行うVtuberに対する誹謗中傷が、Vtuber演者自身へ名誉棄損が認められたニュースが話題になりました。

Vtuberというのはアバターを通じて空想のキャラクターを演じて配信事業を行う人たちです。一般の生身の人間がそのまま配信しているケースとは異なり、活動に対する評価がアバターなり空想上のキャラクター付けに対するものなのか、それとも実際に演じている人(いわゆる「中の人」)に対するものなのかが不明確であり、名誉棄損事例に関しても同様の問題が生じます。

今回の誹謗中傷事例の要点を弁護士が解説します。

自分がVTuberとして活動しているとき、もしくは演者を抱えている事業者さまにも、誹謗中傷に対して何を基準に判断をすればよいか、ご理解いただけると思います。

VTuber・演者へのネット誹謗中傷裁判事例の解説

今回問題になった大阪地裁令和4年8月31日判決の事例(参照記事)はVTuberグループ「にじさんじ」を運営するANYCOLER所属Vtuberに対し「バカ女」「母親がいないから精神が未熟である」などと誹謗中傷がなされたものです。


バーチャルYouTuberとして活動する者に対する名誉感情侵害を認めた事例

引用・参考:TKCローライブラリー ‐日本最大級の法律情報データベース‐

裁判所は本件の誹謗中傷をアバターやVtuberとしてのキャラクターに対する誹謗中傷ではなく、実際の演者に対する誹謗中傷と判断し、発信者情報を開示する判決を出しました。

同様の事例は既に東京地判令和3年4月26日(令和2年(ワ)33497号)にも下されており、裁判所としても演者に対する誹謗中傷として処理する傾向が確立されてきております。

特に令和3年の事例ではVtuber(便宜上「X」とおきます)のキャラクターコンセプトにさかのぼり、誹謗中傷が演者に対するものであることが認定されています。

具体的には

a)Vtuber「X」のキャラクターを製作する際に演者と協議のうえ、演者の人格・個性を生かすキャラクターを製作していること

b)動画配信は演者の肉声で発信し、モーションも演者自身のモーションをキャプチャーしていること

c)SNSでの発信は実際の演者の生活における出来事を発信しており、架空の事実ではないこと

の3点から、Vtuber「X」の活動が演者の人格を反映しているものであるという前提事実を認定しています(①)。

そのうえで、

Vtuber「X」に対する批判内容として「親がいないこと」「片親だから」という表現で批判がなされている点について、

裁判所はVtuber「X」には片親というキャラクター設定はなく、片親であることは演者の実際の家庭環境であることを認定し(②)

これらの言動が架空のVtuber「Ⅹ」に対するものではなく、中の人である演者に向けられたものであると認定しました。

そして、生育環境にまで結び付けて批判する投稿内容は受忍限度を超え、名誉感情を害するコメントとして演者の権利を侵害することが明らかな投稿であると判断されました。

本件でニュースになった投稿内容も令和3年の事例と同様、Vtuberの実生活にかこつけて人格を非難するものであることであったことから、同様の判断になったものと考えられます。

VTuber・演者として活動するみなさまに気をつけてほしい3つのポイント

そこでVtuberの皆様においては、誹謗中傷に類する投稿を受けた際にチェックしていただきたいポイントとして

1)Vtuberのキャラクターコンセプトと演者としての実人格がどの程度一致しているのか
2)Vtuberとしての活動内容(配信・SNS・イベント)などにおいて、架空の作り上げたキャラクターをもとに活動しているのか、演者自身の性格や人格を生かして活動しているのか

などのキャラクターコンセプトや日々の活動のスタイルについてきちんと意識確認をしておくことが肝要です。

そのうえで、

3)実際に行われた批判・誹謗に当たる投稿がVtuberとしてのどの部分に関する投稿なのか、中の演者の私生活や環境・実人格に対する誹謗中傷に当たるのかをしっかりと整理して見極める

ことが肝要です。

Vtuberというジャンルが確立して久しい現在ですが、Vtuberのコンセプトはそれこそ千差万別で同じものが見当たらないところに魅力があり、また誹謗中傷の形もそれだけのパターンがあることにもなります。

誹謗中傷にお困りになった際には誹謗中傷対策に理解のある弁護士を選ぶことはもちろん、Vtuberやキャラクター設定、活動陣営に理解のある弁護士を選ぶことが今後重要になると考えられます。

弊所ではVtuber様のご相談を始めサブカルチャー向けの誹謗中傷対策のご相談を広く扱っております。誹謗中傷は深刻なものに関しては個人情報流出やそれに伴う二次被害などを引き起こしますので、早めの対処が肝要です。お気軽にご相談にいらしてください。

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