制作会社と企業が確認したい商用利用と契約の7つのポイント
前田拓郎法律事務所 弁護士 前田拓郎

画像生成AIで作った画像を広告に使いたい。顧客からは、次の案件ではAIを取り入れて制作費や納期を見直せないかと相談された。社内では既に使っているけれど、会社としてどこまで認めてよいのかは決まっていない。こうした場面で、最初に調べるのは「このサービスは商用利用できるか」ではないでしょうか。
画像生成AIの出力は、生成AIツールの利用条件や権利関係を確認したうえで、広告や制作物に利用できる場合があります。ただし、サービスの説明に「商用利用可能」とあっても、それだけで、入力する素材から納品契約までの問題が解決するわけではありません。利用規約上できることと、第三者の権利を侵害しないこと、顧客との約束を守れることは、それぞれ確認が必要です。
例えば、企業のイラストを入力して新しいポーズを生成する場合、その企業が元のイラストについて、どこまで権利を持っているかが問題になります。生成AIツールにイラストを無限定に学習させると、別のユーザーが企業のイラストを生成してしまうリスクがあります。また、生成した画像を独占的に使いたいと言われた場合は、画像についてどのような権利が成立し、その権利を誰が持つのかを検討します。広告に掲載する場合は、画像が商品やサービスの実態と食い違っていないかも確認しなければなりません。
本記事では、広告・デザイン・ゲーム等の制作会社、制作を発注する企業の広報・マーケティング担当者、法務担当者に向けて、画像生成AIを業務に組み込む際の確認事項を説明します。本記事で想定するケースは一般的な公開型サービスの利用を中心とし、自社モデルの開発や海外法制の詳細は扱いません。法的な説明は日本法を前提とします。海外向け広告や国外の顧客への納品では、別途適用法令の検討が必要です。
法律上の原則には出典番号を付し、実務の進め方については当事務所の提案として記載しています。紹介する事例は説明のために作成した架空のもので、当事務所の受任した実際の事例を示すものではありません。
生成AIツールに関してはこちらの記事もご参照ください。
「弁護士が解説!生成AI・AIツールの導入・活用・開発に関するよくある質問と回答」
1.まず画像の用途と取引の流れを整理する
(1)社内の検討用と広告への掲載では確認事項が変わる
まず「仕事で使う画像」というだけでは、判断に必要な情報が足りません。用途による判別が必要です。具体的には、社内会議で方向性を検討するラフなのか、顧客に見せる提案書なのか、ウェブ広告に掲載する完成画像なのかにより確認事項や利用範囲条件などが変わります。さらに、顧客が画像を商品に印刷するのか、別の制作会社に渡して加工するのかによっても、契約で確保すべき利用範囲が変わります。
最初の打合せでは、掲載媒体、利用期間、想定する地域、改変の予定、第三者への提供の有無を確認することを勧めます。「SNS用の1枚」と聞いていた画像が、後から店頭ポスターや商品パッケージにも展開されるのであれば、その変更を確認する機会を設けます。制作時点で予定していなかった使い方を、納品後も無制限に引き受ける必要があるのかは、見積りや契約の問題でもあります。
社内で見るだけなら、どのような画像を複製してもよいというわけではありません。著作権法上の私的使用のための複製は、企業内利用を一般的に認める規定ではありません。他方、適法な利用を検討する過程で必要な複製等については、著作権法第30条の3の適用を検討できる場合があります。内部利用か外部公開かだけで結論を出さず、目的と行為を具体的に見ていくことになります。[注1:著作権法第30条及び第30条の3]
(2)誰が契約して誰が生成するのかも確認する
同じ画像でも、発注企業の契約アカウントで生成したものと、外注デザイナーが個人のアカウントで生成したものでは、適用条件や確認できる記録が異なることがあります。発注企業、元請制作会社、外注先、AIサービス提供者の間で、誰がどの契約に拘束されるかを書き出してください。
この作業は大掛かりなものではありません。「当社が顧客から商品写真を受領し、外注デザイナーが指定サービスに入力し、当社が加工して納品する」と、一文で制作工程を書くだけでも有用です。そこにアカウントの契約者と最終画像の公開者を追記すれば、確認すべき相手が見えてきます。
承認を得るべき相手が顧客の制作担当者なのか、法務担当者なのか、キャラクターの権利元なのかも整理します。窓口担当者の了解を得ただけで、社内承認や権利者の許諾まで完了したと考えるのは避けましょう。誰の権限で、何に対して了解が出ているかを確認することが、納品直前の差戻しを防ぐ助けになります。
(3)発注前に決めると手戻りを減らせる
制作後にAI利用の可否を確認すると、画像を作り直す必要が生じることがあります。見積り時に、AIを使う工程と最終成果物に生成画像を含める予定を伝え、条件をすり合わせる方が進めやすくなります。
例えば「背景の検討案にはAIを使うが、採用案は別途制作する」「生成画像を最終成果物に含めるため、顧客側の利用方針を事前に確認する」といった整理です。このように用途を具体化すれば、AI利用を認めるかどうかの議論も、実際の案件に即して進められます。
2.サービス名だけでなくモデルと契約条件を確認する
(1)商用利用という言葉の中身を読む
生成AIツールについて、商用利用が認められている場合でも、自社広告への掲載、顧客への納品、画像素材そのものの販売、第三者への再許諾がすべて同じ条件とは限りません。FAQの短い説明だけで判断せず、生成AIツールの利用規約、製品別条件、法人契約、禁止用途のガイドラインを確認します。
確認する順序としては、まず契約者とプランを特定し、次に利用した機能・モデルを確認し、そのうえで予定する利用方法が認められるかを調べることを勧めます。有料プランならすべて自由、法人名義ならすべて補償される、といった理解は避ける必要があります。
規約に「出力の権利は利用者に帰属する」と書かれている場合も、その文言が何を定めているかを読み分けます。サービス提供者と利用者の間で権利関係を整理する条項であっても、第三者が持つ著作権を消滅させたり、日本法上成立していない著作権を新しく発生させたりするものではありません。顧客への説明では、「サービスとの関係で利用できること」と「第三者に対して権利を主張できること」を分けて伝える必要があります。
(2)利用するモデルを区別する
Adobe Fireflyのように、同一の制作環境から複数のモデルを利用できるサービスがあります。Adobeの公式サイトも、Fireflyを複数のAIモデルで画像・動画・音声等を制作できる環境として紹介しています。そのため、社内ルールに「Fireflyなら利用可能」とだけ書いても、実際にどのモデルを利用してよいかは明確になりません。[注4]
Adobe Fireflyの製品説明では、知的財産に関する補償の対象として機能や利用環境等が定められています。また、Adobeが学習させたものではないモデルで動作する旨が表示された機能や、所定のベータ・試用機能等は、その対象から除外されています。補償には契約や対象プラン等の条件もあるため、Fireflyの画面から使えるという理由だけで一律に補償対象と判断することはできません。[注5:Firefly IP Indemnification]
これはFireflyが特別に使いにくいという話ではありません。利用環境の名前と、実際の処理を担うモデル、適用される契約をそろえて確認する必要があるということです。社内の利用承認表には、サービス名に加えて、利用を認める機能・モデル・契約プラン・用途を記載すると実務に合います。
(3)補償があれば何が解決するのかを具体化する
利用規約の補償条項を確認するときは、誰からどのような請求を受けた場合に、誰が、どの費用を負担するかを読みます。顧客からの作り直し要求、広告停止に伴う費用、販売機会の喪失まで対象になるかは、別々に検討すべき事項です。
また、補償を求める際の通知期限、紛争対応への協力、相手方との和解についての承諾、責任限度額等も確認対象です。「補償付き」という表示を見て、顧客との契約で無制限の責任を引き受けることには慎重であるべきです。サービス提供者から受けられる保護と、自社が顧客に約束する保護の間に差がないかを見ます。
担当者が毎回すべての規約を読み直す運用は続きません。採用するサービスについて初回の確認を行い、その結果と確認日を保存し、プランやモデルの変更、契約更新などの際に見直す方法を勧めます。制作当時の条件を後から説明できるよう、関係する規約の版や注文書も残してください。
3.入力する素材を使う権限と情報管理を確認する
(1)顧客から渡された素材にも確認が必要
顧客が画像ファイルを持っていることと、その画像をあらゆる方法で利用できることは同じではありません。顧客自身も、イラストレーターや写真家から、一定の広告や媒体で使う許諾だけを受けている場合があります。
顧客のキャラクターを生成AIに入力し、衣装やポーズを変えた画像を制作したいのであれば、顧客側の元の契約を確認します。著作権が譲渡されているのか、利用許諾なのか。改変や二次利用をどう扱っているか。外部サービスへの入力について制限があるか。ファイルの受領時には見えなかった条件を、制作前に確認する必要があります。[注1:著作権法第27条、第28条、第61条、第63条]
外注先から「自分で描いたので大丈夫」と説明された場合も、共同制作者や元になる素材の存在を確認する余地があります。もっとも、すべての素材について際限なく調査するという意味ではありません。入力予定の素材を一覧にし、自社制作、顧客提供、購入素材、その他の区分ごとに、確認資料と確認者を決める方法が現実的です。
(2)AIへの入力には必ず許諾が必要なのか
著作権法第30条の4には、著作物に表現された思想・感情を享受する目的がない利用について、一定の範囲で許諾を不要とする規定があります。ただし、必要と認められる限度や、権利者の利益を不当に害しないこと等の要件があります。「AIに関係する処理だから自由」と扱える規定ではありません。
著作権法第30条の4
著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
一 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合
三 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合
文化庁のチェックリストも、画像を入力して類似する生成物を作る目的がある場合には、同条が適用されない場合があると説明しています。入力の目的と、実際に生成しようとするものを確認する必要があります。[注3:19頁]
ここでは、法律上の許諾の要否と、顧客から預かった素材をどう扱う約束になっているかを分けて考える必要があります。著作権法上の権利制限規定が適用されるとしても、顧客との秘密保持契約やサービスの利用規約まで当然に解決するわけではありません。「著作権の問題は検討したが、外部サービスへのアップロードについて契約上の制限を見落としていた」ということがないよう、確認項目を分けておきます。
(3)学習に使われないことと外部に出さないことは異なる
サービスが入力データをモデルの学習に使わないとしても、データを受信・保存・処理することまでなくなるわけではありません。入力データの保持期間、削除方法、閲覧できる者、サービス改善や不正利用防止のための処理、外部事業者への提供等を確認します。
例えばAdobeの生成AIユーザーガイドラインには、不正使用防止等の目的で入力・出力が自動又は手動の方法により確認されることがある旨が記載されています。こうした規定も、顧客との秘密保持の約束との整合性を確認する材料になります。[注6:第1項]
未発表の商品写真やキャラクター設定画については、まず入力する必要があるかを検討してください。背景の雰囲気を検討したいだけなら、実際の商品画像を使わずに進められる場合があります。どうしても入力が必要であれば、顧客と利用環境・用途を合意する、承認された契約環境を使う、といった方法を検討します。
人物写真や名簿等が含まれる場合は、個人情報保護の検討も必要です。個人情報保護委員会は、個人データを含むプロンプトを入力する際、応答生成以外の目的で取り扱われないか等を確認するよう注意喚起しています。写真の利用許諾を得ていることだけで、個人データの取扱いに関する確認が終わるわけではありません。[注7]
入力前の確認について法務に相談する際は、サービス名だけでなく、入力する素材の種類、入手先、契約、利用目的をそろえると、必要な確認を絞りやすくなります。
4.出力された画像について第三者の権利と広告表現を確認する
(1)著作権侵害の検討では似ている部分を具体的に見る
AIによる生成画像については、既存の著作物との類似性と依拠性が問題になります。類似性の検討では、アイデアやありふれた表現の共通だけでなく、保護される創作的表現が共通しているかを確認します。依拠性は、既存の著作物に基づいて作られたかという問題です。[注2:5(2)]
実務では「何となく似ている」「色が違うから別物だ」という感想で終わらせないことが大切です。人物の配置、特徴的な衣装や装飾、背景の構成など、画像の本質的特徴が問題になりそうな部分を特定し、比較対象と並べて確認します。画像の一部だけを変更すれば必ず問題がなくなる、何割変えれば安全、といった一律の基準はありません。
また、担当者が元の作品を知らなかったという事情だけで、常に侵害が否定されるわけではありません。文化庁の整理では、AIの学習状況等を踏まえた依拠性の検討が示されています。ただし、この整理は裁判所の判断を拘束するものではなく、個別の事案や証拠に応じた検討が必要です。[注2:冒頭、5(2)]
一方で、利用者が世界中の画像を完全に調べることもできません。当事務所では、用途の重要性や画像の特徴に応じて確認の厚みを変える方法を提案します。長期間使うブランドの主要ビジュアル、顧客の独占利用を予定するキャラクター、既存IPを強く想起させる画像は、一般的な背景素材より慎重に確認する、といった設計です。
(2)画像検索は確認の一部として使う
画像検索を行う場合は、完成画像の全体だけでなく、特徴的な部分も確認するとよいでしょう。気になる作品が見つかった場合は、そのURLと画像、確認日を残し、採用・修正・差替えの判断理由も記録します。
もっとも、検索で似た画像が見つからなかったという結果は、非侵害の保証にはなりません。検索対象や検出精度には限界があるためです。他方、確認した事実と判断過程を説明できることには意味があります。調査をしたことを顧客に伝える際も、「権利侵害が絶対にないことを確認した」とは表現せず、何をどの範囲で確認したかを説明する方が正確です。
特定の作家の作風を指定する場合も注意が必要です。作風という抽象的な特徴と、個別作品の創作的表現を区別して検討します。法律上の評価とは別に、顧客のブランド方針やクリエイターとの関係から、その作風(これは著作権法上の保護対象ではない)に類似している作品を採用しないという判断もあります。制作上必要な色調や構図を具体的な言葉で指示できるなら、その方法を検討してください。[注2:5(1)イ等]
(3)ロゴや人物についても確認する
画像の中にブランド名やロゴが生成されていないか、実在する人物を想起させる顔になっていないかを確認します。これらは著作権だけで結論が出る問題ではありません。ロゴの表示態様や使用目的、人物を識別できる程度、広告への使われ方等によって、商標、肖像・パブリシティ等の論点を別途検討する必要があります。[注9、注10]
確認担当者には「著作権だけを見る」と伝えるよりも、「他社との関係を誤認させる要素がないか」「特定の人物が推薦しているように見えないか」と、画面上で確認する事項を示した方が伝わりやすくなります。法的評価が必要な画像は、候補段階で法務担当者に回すようにします。
(4)広告では商品の実態と合っているかを確認する
権利侵害の問題がなくても、広告として適切とは限りません。AIによって商品の機能が増えて見える、実際にはない設備が施設写真に加わる、提供しないサービスを受けられるように見える、といった加工には注意が必要です。
景品表示法は、商品・サービスの品質等について、実際よりも著しく優良であると一般消費者に誤認される表示等を規制しています。AIで作った画像についても、表示全体からどのような印象を与えるかを検討する必要があります。「AI生成」「イメージ」と注記すれば、画像による誤認が必ず解消するというものではありません。[注8、注11:景品表示法第5条第1号]
制作会社だけでは商品の仕様を判断できないため、商品担当者が実物との整合性を確認し、広報や法務が広告としての見え方を確認する役割分担を勧めます。商品の形状や性能を変えないために、背景だけを生成し、商品自体は実写素材を合成するなど、制作方法を調整できる場合もあります。
5.顧客に渡せる権利と独占利用の期待を整理する
(1)AIを使った画像には著作権がないと決めつけない
AIを利用したという事実だけで、画像全体の著作物性が一律に決まるわけではありません。人がどのように制作に関与したかを具体的に確認します。文化庁の整理も、創作意図と創作的寄与の観点から検討しています。[注1:著作権法第2条第1項第1号・第2号、注2:5(3)]
このため、プロンプトの文字数や生成回数だけで著作権の有無を説明することは避けるべきです。制作者がどのような表現を考え、どの部分を指定し、生成後にどのような加工をしたのかを把握します。AI出力を素材として用い、人が描き加えたり配置・構成を工夫したりした場合は、その寄与の内容や保護される範囲を検討することになります。
記録としては、初期の構想、主要な指示、採用前後の画像、編集ファイル、人が修正した箇所を残しておくと、制作過程の説明に役立ちます。ただし、記録があれば著作物性が必ず認められるわけではありません。証拠を残すことと、法的な要件を満たすことは別の問題です。
(2)全著作権の譲渡という条項をそのまま使えるか
契約書で「納品物の著作権はすべて発注者に移転する」と定める場合、まず制作会社がどの権利を持っているかを確認します。生成部分、外部素材、人の創作部分が含まれる画像では、それぞれについて整理が必要です。持っていない権利を、条項を置くだけで取得・移転できるわけではありません。
自社又は外注先が著作権を持つ部分について譲渡するのか、必要な範囲の利用を許諾するのか。第三者素材についてはどの条件が残るのか。著作権が成立しない可能性のある部分をどう説明するか。これらを納品条件に反映させます。著作権法第27条・第28条の権利を譲渡対象に含める場合の明記や、譲渡できない著作者人格権の取扱いも、従来の制作契約と同様に検討が必要です。[注1:著作権法第59条、第61条2項]
ただし、権利の不確実性をすべて顧客に負担させればよいという話でもありません。顧客が買いたいのは、予定する事業で使える制作物です。顧客の目的に合わせて、利用できる範囲を具体化し、確保できる権利を確保し、足りない部分は制作方法や取引条件を調整する必要があります。
(3)独占利用には段階がある
「独占的に使いたい」という希望には、いくつかの意味が含まれます。制作会社が同じ画像を他社に売らないこと、外注先が未公開画像を公表しないこと、第三者が似た画像を作った場合に差止めを求められることは、別々の問題です。
前二者は、契約当事者の行動を制限する約束として設計できます。しかし、その約束だけで、無関係な第三者の独立した制作や利用を禁止できるわけではありません。顧客が競合他社による使用を広く防ぎたいなら、どの権利を根拠に、どの範囲で保護を求められるかを検討します。
特に、長期的なブランドの象徴となるキャラクターやロゴでは、生成速度だけで制作方法を決めないことを勧めます。人による創作工程を明確にする、権利の確認ができる制作者に依頼する、商標等の保護も検討するなど、事業目的から制作工程を選ぶ方がよい場合があります。AIを下絵や方向性の検討に使い、最終成果物の制作方法を別に設計する選択もあります。
6.制作契約ではAI利用と責任分担を具体化する
(1)AI利用の合意は工程ごとに取る
契約書に「AIを利用できる」と一行書くだけでは、顧客と制作会社の期待が食い違うことがあります。顧客はアイデア出しだけを想定し、制作会社は最終画像の大部分を生成してよいと理解しているかもしれません。
当事務所では、許容する工程、最終成果物への使用の有無、入力可能な素材、利用環境を、実際の制作方法に応じて定めることを提案します。すべてを基本契約に書き込む必要はありません。基本契約に共通のルールを置き、個別の仕様書や発注書で案件ごとの条件を決める方法もあります。
例えば「AIによる背景画像の生成を認めるが、顧客提供の人物写真は入力しない」「キャラクター画像の入力は権利確認後の書面承認を条件とする」といった内容です。これは汎用の完成条項ではなく、条件を具体化するための検討例です。実際の契約では、承認者、承認方法、変更手続との整合性も確認します。
(2)顧客に説明するタイミングを決める
AI利用を説明するなら、顧客が判断を変更できる段階で行うことが重要です。完成画像を納品してから初めて告げると、顧客の社内ルールに合わず、作り直しが必要になるリスクがあります。AI利用の有無が契約条件や権利取得の判断に影響する場合は、契約前又は制作着手前に説明すべき事項として整理します。
法律上の表示義務、顧客への契約上の説明、プラットフォームの表示ルール、営業上の方針は区別してください。本記事で、あらゆるAI画像について一律の表示義務がある、又は一切ない、と整理することはしません。利用する地域、媒体、コンテンツの内容と適用条件を確認します。Adobeのように、来歴情報の取扱いを利用ルールで定めている例もあります。[注6:6項]
顧客向けの説明書は、長い免責文よりも、使用する工程、権利確認の範囲、利用時の条件、追加利用の際の連絡先を短く示す方が実務に役立ちます。説明書と契約書で違うことを書かないように、両方を同時に点検してください。
(3)権利保証と確認義務を分ける
「第三者の権利を侵害しないことを保証する」という約束と、「合意した方法で権利確認を行う」という約束は、負担の内容が異なります。顧客が何を必要としているか、自社が何を実行できるかを踏まえて調整します。
制作会社が選んだ素材、顧客が指定して提供した素材、納品後に顧客や別の業者が加えた加工について、すべてを同じ責任で扱う必要があるかも検討します。誰が素材を選び、必要な情報を持ち、危険を回避できるかを基準に分担すると、説明しやすくなります。
もっとも、「顧客提供素材に関する責任は顧客が負う」と定めれば、明らかに問題がある素材をそのまま使ってよいわけではありません。疑問点を見つけたときの通知や制作停止、別素材の提供を求める手続も合わせて決めます。顧客の承認は重要ですが、第三者の権利者を拘束する許諾とは別です。
(4)作り直しや広告停止への対応も合意する
紛争が生じたときは、損害賠償の最終的な負担が決まる前に、公開停止や画像の差替えが必要になる場合があります。顧客と制作会社のどちらが掲載媒体に連絡するのか。代替画像を誰が用意するのか。緊急対応の費用を一時的に誰が負担するのか。制作契約で確認する意味があります。
通常の修正と、権利問題に対応する修正、顧客が用途を変更したことによる修正も分けましょう。例えば、SNS広告として確認した画像を商品化したいという依頼は、新しい権利確認や条件変更を伴うことがあります。追加の確認作業を無償の修正回数に含めるのかは、最初に決めておく方が明確です。
責任上限、対象となる損害、故意・重過失等の例外、通知や協議の手順は、取引規模や交渉力も踏まえて設計します。AIサービスの補償がある場合でも、自社と顧客の間の費用負担をそのまま代替するとは限りません。経済産業省の契約チェックリストも、AIサービスの利用条件やデータの扱いを検討するための資料として参考になります。[注12]
(5)外注先への条件もそろえる
顧客に対して「指定した環境だけを使う」と約束したのに、外注先には何も伝えていなければ、契約と現場が食い違います。利用可能なサービス、入力できる情報、記録の提出、再委託時の扱いを、外注契約や業務指示にも反映します。
外注先から受け取るべき情報を、納品直前に増やさないことも大切です。必要な記録の項目と提出時期を発注時に伝えておけば、後から生成履歴が消えて確認できないという事態を減らせます。契約書の文言を整える作業と、現場が実際に保存できる資料を決める作業を、一緒に進めることを勧めます。
7.担当者が運用できる確認手順を作る
(1)一律の禁止や毎回の全件審査だけに頼らない
画像生成AIを利用するたびに、担当者が最初から法務に相談する運用では、回答待ちが制作の負担になります。一方で、担当者の判断に全面的に任せると、案件によって確認の水準が変わります。
当事務所の提案は、通常の手順で進められる案件と、追加確認が必要な案件を具体例で区別することです。例えば、自社で利用権限を確認した素材を、承認済みの環境で、合意済みの用途に使う案件は、所定の確認後に進めます。新しいサービス、人物写真、第三者のキャラクター、顧客からの広い権利保証要求がある案件は、追加確認に回します。
ここで挙げた区分は社内運用の例であり、法律が定める安全基準ではありません。会社の制作物や取引条件に応じて調整します。通常処理に分類された案件についても、疑わしい出力が出た場合や顧客の用途が変わった場合には、再確認できる仕組みを残します。
(2)制作開始前と公開前に確認することを分ける
制作開始前には、利用環境、素材の権限、顧客の方針、納品条件を確認します。公開前には、完成画像の類似性やロゴ・人物の問題、商品の実態との整合性、必要な表示、顧客承認を確認します。完成するまで判断できない事項を、制作開始前のチェックだけで済ませないことが重要です。
役割も分けます。制作者は使用素材と生成・編集の記録を残し、進行担当者は顧客の条件と納期を管理します。商品担当者は実物との整合性を確認し、法務は権利や契約上の疑問点を検討します。人数の少ない会社では兼任でも構いませんが、確認した項目と担当者を記録します。
(3)記録は案件フォルダに集約する
記録の保管先が個人のチャットや端末に分散すると、担当者の異動や契約終了後に確認しにくくなります。案件番号や納品ファイル名と結び付けて、素材の出所、主な生成条件、採用画像、編集データ、承認履歴を保存してください。
すべての試行画像を永久に保存する必要があると決めつけることも適切ではありません。顧客との契約、情報の機密性、紛争時に必要な説明、保存に伴う負担を踏まえて、保存対象と期間を定めます。個人情報や顧客の秘密を含む記録は、アクセスできる者も制限します。
(4)指摘を受けたときの初動を決める
権利者や顧客から問題を指摘された場合は、公開状況、対象画像、生成・編集の記録、契約を保存し、担当窓口を一本化します。公開の一時停止や差替えが必要かは、指摘の内容と影響を踏まえて判断します。記録まで削除すると事実確認が難しくなるため、公開停止と証拠保全を区別してください。
サービス提供者の補償や保険の利用を検討する場合には、その通知手続も確認します。相手の主張を十分に確認しないまま、現場担当者が無制限の補償や全面的な責任を約束すると、後の対応に影響することがあります。初動の連絡内容と判断者を平時に決めておくことが、対応の混乱を抑えます。
※架空事例で確認するキャラクター広告の制作
ここからは、上記の確認事項を一つの案件に当てはめてみます。以下は説明用の架空事例です。
制作会社A社は、メーカーB社から、新商品の広告ビジュアル制作を受注しました。B社は、以前イラストレーターC氏に依頼した自社キャラクターの画像をA社に渡し、季節に合わせた衣装やポーズの案を作ってほしいと依頼しました。A社の担当者は、商用利用が可能と案内されている画像生成AIに画像を入力し、複数の案を作成しました。
ところが、納品前にB社から、完成画像を広告だけでなくグッズにも使いたいので、全著作権の譲渡と第三者権利の非侵害保証をしてほしいと言われました。A社は、サービスの商用利用が認められているため、そのまま応じてよいと考えています。
この事例では、まずC氏とB社の契約を確認します。B社が受けた許諾が従来の広告利用に限られていれば、衣装の改変やグッズ化について追加の合意が必要になる可能性があります。B社が著作権の譲渡を受けていたとしても、譲渡の範囲や著作者人格権の扱い等を確認します。「自社キャラクター」という呼び方だけでは結論は出ません。
次に、A社が利用したサービスの契約者、プラン、モデル、入力・出力の条件を確認します。顧客の画像を入力できる条件か、サービス提供者にどの利用権限を与えることになるか、補償の対象になるかを、実際の契約に照らして見ます。単に商用利用可能と案内されているだけでは、この確認を省略できません。
さらに、完成画像についてA社が持つ権利と、B社が必要とする権利を整理します。元のキャラクターの権利、生成部分、人による加工部分を区別し、譲渡できるものと利用条件が残るものを説明します。グッズ化が当初の仕様に含まれていなかったなら、確認作業、費用、納期の変更も協議します。
対応方法は一つではありません。C氏を含めて追加の許諾条件を調整する、元の画像を入力しない方法に変える、AIは方向性の検討に使い最終画像は別途制作する、今回の利用を広告に限定する、といった選択肢があります。どの方法を採るかは、必要な権利、予算、時間、B社が望む独占性によって変わります。
法務への相談で役立つのは、「このAIは安全ですか」という質問だけではありません。「誰から預かった画像を、どの環境で処理し、誰に、どの条件で納品したいか」を共有することです。それが分かれば、確認すべき契約と調整の相手を絞れます。制作方法を変更する余地があるうちに相談することで、納期への影響も検討しやすくなります。
※公開や納品の前に使う確認リスト
次の項目は、本記事の検討を社内の案件管理に落とし込むための確認例です。すべてにチェックを付ければ適法性が保証されるというものではありません。未確認の項目について、担当者と確認期限を決めるために使ってください。
・画像の掲載媒体、利用期間、利用地域、再加工、商品化の予定が分かっている。
・顧客のAI利用方針と、契約・発注条件を確認している。
・サービスの契約者、プラン、利用機能・モデル、適用規約が分かっている。
・入力素材の入手先、利用権限、秘密情報や個人情報の有無を確認している。
・完成画像について、既存作品、ロゴ、人物等の問題を確認している。
・広告画像が実際の商品・サービスと食い違っていないか確認している。
・譲渡・許諾する権利と、独占性について顧客に説明する内容が整理されている。
・AI利用に関する説明、必要な承認、媒体の表示ルールを確認している。
・外注先への条件と顧客への約束が整合している。
・制作記録、承認記録、問題が生じた場合の連絡先を保管している。
このうち、利用権限が不明な素材を入力する、画像の独占的な権利を求められる、顧客から広い補償を要求される、といった場合は、納品前に個別の検討を行う価値があります。確認に必要な資料が欠けているだけなのか、契約条件の変更が必要なのか、制作方法を変えるべきなのかを切り分けます。
8.よくある疑問
有料プランなら顧客に納品してよいか
料金の支払だけで判断はできません。適用される利用条件、入力素材の権利、完成画像の内容、顧客との契約を確認します。料金はサービスを利用するための条件の一つであり、第三者の権利や顧客への保証まで一括して処理するものではありません。
AI画像だと顧客に伝えれば責任を負わなくなるか
説明は重要ですが、説明したという事実だけで責任がなくなるわけではありません。顧客が何を了解したか、どの義務を誰が負う契約か、第三者の権利を侵害していないかを別々に検討します。顧客の了解が、元の著作権者や肖像の本人からの許諾に代わるわけでもありません。
著作権が成立しない画像なら誰の権利も侵害しないか
その画像自体が著作権で保護されるかという問題と、既存の作品の権利を侵害するかという問題は別です。生成物自身に著作物性が認められない場合でも、既存作品の創作的表現を再現するなどして、その権利を侵害する可能性はあります。自社が取得する権利と、他人が持つ権利を分けて確認してください。[注1、注2]
元の作品を知らなければ損害賠償も差止めもないか
侵害の成立、損害賠償の要件、差止めの要件は分けて検討します。損害賠償では故意・過失等が問題になりますが、著作権に基づく差止めは、一般に故意・過失を要件としません。担当者が知らなかったことだけで、公開の継続が認められるとは限りません。[注1:著作権法第112条、注13:民法第709条]
顧問弁護士が既にいても専門分野だけ相談できるか
可能です。一般的な契約管理や社内手続は既存の法務体制で扱い、画像生成AIに関する権利処理、サービス条件、制作工程との整合性等を専門分野として相談する方法があります。当事務所では、現在の体制と検討中の案件を伺い、対応範囲を打合せで確認します。
※注釈
[1] 著作権法(昭和45年法律第48号)。主な参照条文は2条、17条、27条、28条、30条、30条の3、30条の4、59条、61条、63条、112条。
出典を開く
[2] 文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月15日)。主な参照箇所は冒頭、5(1)開発・学習段階、5(2)生成・利用段階、5(3)生成物の著作物性について。
出典を開く
[3] 文化庁「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」(2024年7月31日)。主な参照箇所は第1部「3.AI利用者(業務利用者)のリスク低減方策」、特に19頁。頁は資料内の表示による。
出典を開く
[4] Adobe「Adobe Firefly」。複数モデルを利用する制作環境の説明を参照。
出典を開く
[5] Adobe「Adobe Firefly Product Description」(ページ上の公開日2026年8月27日)。「Firefly IP Indemnification」の対象機能、対象利用環境、除外条件等を参照。各利用者に適用される個別契約も確認する必要がある。
出典を開く
[6] Adobe「Adobe生成AIユーザーガイドライン」(最終更新日2026年5月15日)。1項、6項を参照。
出典を開く
[7] 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2023年6月2日)。別添1の個人情報取扱事業者に対する注意喚起を参照。
出典を開く
[8] 消費者庁「優良誤認とは」。商品・サービスの品質等に関する表示の説明を参照。
出典を開く
[9] 商標法(昭和34年法律第127号)。商標権の効力、侵害とみなす行為等について25条、37条等を参照。
出典を開く
[10] 最高裁第一小法廷平成24年2月2日判決(平成21年(受)第2056号、民集66巻2号89頁)。肖像等の顧客吸引力の利用とパブリシティ権に関する判断。画像生成AIについての判決ではない。
出典を開く
判決本文の転載先
出典を開く
[11] 不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号)5条1号。
出典を開く
[12] 経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」(2025年2月18日公表)。入力データや出力の利用条件を検討するための参考資料。
出典を開く
[13] 民法(明治29年法律第89号)709条。
出典を開く
画像生成AIの制作や納品で判断に迷う方へ
前田拓郎法律事務所では、著作権・コンテンツ取引と生成AIの双方を踏まえ、制作工程、利用するサービスの条件、顧客や外注先との契約を合わせて検討します。代表弁護士の前田拓郎は出版社での勤務経験があり、『生成AI開発・運用のための法務の教科書』を執筆しています。
例えば、次のような段階でご相談いただけます。
・AI画像を初めて顧客に納品するため、契約と説明内容を確認したい。
・顧客のキャラクターや人物写真を入力してよいか判断したい。
・顧客から広い権利保証や補償を求められ、どこまで応じるか相談したい。
・制作現場で使える社内ルールや外注先向けの条件を整えたい。
・既存の顧問弁護士や法務部と分担し、AI・知財の部分を継続的に相談したい。
まずは、ご相談内容を問い合わせフォームからお知らせください。「画像生成AIの制作・納品について」と記載し、①御社の立場、②利用するサービス、③制作物の用途、④現在困っている点、⑤公開・納品の予定日を、分かる範囲でお伝えいただければ、打合せの準備がしやすくなります。資料がすべてそろっていなくても構いません。機密資料の受渡し方法は、個別にご案内します。
お問い合わせ後、ヒアリングの機会を設け、対応範囲と費用をご説明します。法律相談と、契約書の作成・確認等のご依頼は、内容に応じてご案内します。初回法律相談の料金は、問い合わせページに掲載しています。顧問契約を前提とせず、一つの案件からご相談いただくことも可能です。
使いたい画像と予定する事業を伺い、必要な確認や契約の調整、制作方法の選択肢を整理します。公開・納品直前だけでなく、企画や見積りの段階でもご相談ください。
