Adobe Fireflyによる著作物の生成・利用方法と注意すべき点

現在、画像生成AIツールの話題性とその進化は驚異的で、多種多様なモデルが日々発表されています。それらの中には、Adobe Fireflyのようなユーザーの意向を大切にするモデルも含まれています。これらのAIツールは学習段階から生成段階までのデータの扱い方について、クリエイターを含む多くの関係者からの意見や批判を受けています。

批判の声の中には、「無断で自分の著作物が学習データとして使用されている」、「違法に公開されている著作物が学習データとして利用されている」など、様々な懸念が含まれています。これらの懸念は、法律的な問題というよりも、クリエイターがAIツールを利用することに対する心理的な抵抗感となっています。

そのような問題を解決するために、AdobeはAdobe Fireflyという新たなAIツールを開発しました。このツールは、学習データの著作権に関する問題や、そのデータがAIツールの学習に使われることに対するクリエイターの意向をよりよく反映しています。現在はまだベータ版の段階ではありますが、その可能性は無限大です。

弊所でも過去に「Adobe Firefly」についてご紹介してきましたが、今回は更に詳しく、Adobe Fireflyの機能や具体的な利用方法、そして利用時の注意点などを、事例に基づき解説していきます。AIの進歩とAdobe Fireflyの可能性を共に探求していきましょう。

1.Adobe Fireflyによる著作権に関する取り組み

(1)Adobe社の3原則

Adobe社は生成AIに対する取り組みをなすにあたり「責任」「説明責任(アカウンタビリティ)」「透明性」の3原則をAIに関する倫理面での重要概念として打ち出しています。

責任:Adobeは、AIテクノロジーの設計と運用を精査し、その導入による影響と結果に対し慎重に対応します。設計に際し「包括性」を考慮し、有害な偏見やステレオタイプにつながる不公平、差別的、不正確な出力結果の影響を調査します。私たちは、製品やサービスが雇用、住宅、信用情報、健康など個人の生活に大きな影響を与える場合、偏見に対し特別な注意を払わなければならないと考えています。

説明責任(アカウンタビリティ):Adobeは、AIを搭載したツールがもたらす結果に責任を持って対応します。AIに対する懸念については、必要に応じて是正措置を取るためのプロセスの確立、そのためのリソースの確保を行います。説明責任には、テストによる潜在的な有害性の予測、そのような有害性を軽減するための事前対策、予期しない有害な結果に対応するシステムの運用も含まれます。

透明性:AdobeのAIシステムとその応用についてお客様に明確にご理解いただけるよう、AIの利用方法について透明性ある説明を行います。アドビのAIの利用方法、AI搭載ツールがお客様にもたらす価値、そしてAdobeのAIで強化されたツールやサービスを使用する際にどのようなコントロールや設定が可能かという点についてご理解いただきたいと考えています。

(以上は「アドビ、責任あるデジタル・シチズンシップに則し、新しいAI倫理原則を発表」https://blog.adobe.com/jp/publish/2021/02/24/corporate-adobe-unveils-new-ai-ethics-principles-commitment-responsible-digital-citizenship より一部引用)

(2)学習データの構成

Adobe Fireflyは、他のAIツールとは違った特別な特徴を持っています。その一つが、著作権問題を防ぐために、学習データとしてAdobe Stockの画像を使っていることです。Adobe Stockには、著作権が切れた画像や、著作権者から正式な許可を得た画像が含まれています。これにより、著作権が不明な画像や、許可なしに使われた作品が混入する危険性を避けています。

Adobeは、Adobe Fireflyの学習モデルを作るために、このAdobe Stockの画像を使っています。このことにより、クリエイターの作品が許可なく学習データとして使われたり、学習済みのモデルが作られるリスクを避け、法的な問題のない、きれいな学習済みモデルをユーザーに提供することができます。

さらに、Adobeは、Adobe Fireflyの学習モデルで、ユーザーが作った作品を学習データとして再利用する方法も使っていません。これにより、ユーザーの作品を使った著作権侵害がFireflyに学習されるリスクも少なくしています。このように、Adobe Fireflyは、AIと著作権の難しい問題に対して、独自の解決策を提供しています。

Fireflyは、どのようなデータでトレーニングされますか?

現在のFirefly生成AIモデルのトレーニングには、Adobe Stockのデータと、オープンライセンスの作品および著作権の切れた一般コンテンツが使用されています。

アドビでは、Fireflyの進化に伴い、クリエイターが自身のアセットでFireflyをトレーニングできる方法を模索しています。これが実現すると、クリエイターは、他のクリエイターのコンテンツによる影響を受けることなく、独自のスタイル、ブランディング、デザイン言語でコンテンツを生成することができます。アドビでは、継続的にクリエイティブコミュニティの声に耳を傾け、ともに協力して、Fireflyモデルのトレーニング方法を開発していきます。

アドビ製品のユーザーが作成したコンテンツのコピーが、Fireflyモデルの一部として使用されることはありますか?

いいえ。お客様のコンテンツのコピーが、Fireflyモデルの一部として使用されることはありません。

アドビ製品のユーザーが作成したコンテンツは、自動的にFireflyのトレーニングに使用されますか?

いいえ。Creative Cloudをご利用のお客様のコンテンツが、トレーニングに使用されることはありません。ただし、Adobe Stockのコントリビューターにご提供いただいたコンテンツは、Stockコントリビューターの使用許諾契約に従って、Fireflyのトレーニングデータとして使用されます。初期のモデルのトレーニングには、Behanceのデータは使用されていません。

(引用元:https://www.adobe.com/jp/sensei/generative-ai/firefly.html

(3)AI学習を拒否する意思の表明方法

Adobe Fireflyは、AI技術の利用を希望しないクリエイターの意思を尊重するという重要な理念を実現しています。Adobe社は、「Do Not Train」タグという独自の機能を今後導入する予定で、これによりクリエイターが自身の著作権持ちの作品がAIモデルのトレーニングに使用されないように要請することが可能となります(参考記事:https://www.adobe.com/jp/news-room/news/202303/20230321_adobe-unveils-firefly.html)。この「Do Not Train」タグは、コンテンツの使用、公開、保存といったあらゆる段階で、コンテンツに関連付けられ、クリエイターの意志を明確に伝える役割を果たします。

さらに、Adobe FireflyはAIが生成したコンテンツに「AI生成」タグを追加することで、その作品がAIによって作成されたことを明示します。これにより、Adobe Fireflyは、AIによって生成された画像やコンテンツと、人間によって作成された作品を明確に区別することができます。コンテンツに埋め込まれたこのタグは自動的に付与され、AIと人間の創作活動の間に透明性をもたらします。このように、Adobe Fireflyは、AIとクリエイターの関係に新たな可能性を提示しています。

2.Adobe Fireflyに関するadobe社規約の内容・ポイント

Adobe Fireflyは今のところ、ベータ版の段階で、エンタープライズ版は2023年の秋以降に始まる予定です。そのため、次の点に注意が必要です。

  • 商用利用は禁止:ベータ版では商用利用は許されていません。クリエイターや企業が自分のビジネスでAIを使いたいときは、エンタープライズ版を契約する必要があります。
  • 品位と安全:個人の目的や非営利での使用でも、違法な内容を作ったりアップロードしたりすることは禁止されています。例えば、性的な内容、暴力的な内容、人種や性別などに対する憎悪的な内容、未成年者の性的描写、第三者の個人情報を含む内容などが禁止されています。

さらに、AdobeはAIモデルの入力と出力について、以下のように規約で定めています(詳しくは:https://www.adobe.com/jp/legal/licenses-terms/adobe-cc-beta-gen-ai-additional-terms.html)。

  • 入力段階:第三者の権利に関するものを入力する行為や、第三者の権利に属する作品と似た作品を出力するための入力は禁止されています。
  • 個人情報:規約では個人情報をAIに入力しないようにするべきであると言及されています。もし入力するときは、データ保護の問題やプライバシーに関する法律を守る必要があります。
  • 出力:出力した作品が法律に適合していて、第三者の権利を侵害していないことについて、ユーザーが責任を持つ必要があります。 また、AIが生成した作品は、透かしやコンテンツ認証イニシアチブ(CAI)に基づいて、メタデータやタグがつけられます。これらを削除したり変更したりすることは禁止されています。

生成した作品については、利用規約により、Adobeがマーケティングや新しいサービス、ソフトウェアの材料として使ったり公開したり、再利用する権利を、ユーザーが無条件で与えることになっていることも覚えておくべきです。

3.Adobe Fireflyの使い方

今、Adobe Firefly(ベータ版)では、4つの機能が使えます。用途に合わせて機能を選べば、画像を作ったり、文字にエフェクトをかけたりできます。

  • Text to Image: 「Text to Image」は、テキストを入力するだけで画像を作る機能です。「猫がピアノを弾いている」と入力すれば、そのシーンの画像をAIが作ります。色々な表現やアイデアに対応します。ビジュアルが思いつかないときや、初めてのスケッチを作るときなどに便利です。
  • Text effects: 「Text effects」は、テキストにエフェクトを加える機能です。「冷たい」や「熱い」、「光り輝く」などと入力すれば、その感情や表現をビジュアルにしたエフェクトが作られます。テキストのデザインを強調したいときに役立ちます。
  • Recolor vectors: 「Recolor vectors」は、すでにある画像の色を変える機能です。色の名前や色の感情を入力すれば、その要求に応じた色の画像が作られます。難しい色の変更でも、簡単に調整できます。これで、デザイン全体のテーマを変えることが簡単にできます。
  • Generative fill: 「Generative fill」は、「生成塗りつぶし」という機能です。これを使えば、Adobe Photoshopで、Adobe FireflyのAIに画像に足りないものを追加したり、背景を拡大したり、置き換えたりできます。「人物」「花柄」や「ストライプ」などと入力すれば、そのテーマに合ったパターンで指定した領域が塗られます。デザインに独自性と多様性を加える強力なツールになります。

例1(Text to Image)

入力文言は「March of the calico Cats in town(三毛猫の行進)」

タッチの条件は「Hyperrealistic、warm tone(暖かい感じ)」という条件を付けて指令を出すと以下の画像が生成されます。

例2(Generateve Fill)

上記の絵をもとに左上に「butterfly」、右下に「march of mice」と記入して生成すると下記のように蝶とネズミが加わった画像になります。

3.Adobe Fireflyによる生成物の権利関係

Adobe Fireflyを用いて生成される作品の著作権発生の有無は、AI利用者が指令やインプットの段階でどのような内容・素材を使ったかにより、変わります。

始めに、Text to Imageのケースを見てみましょう。単純な指令に基づき、どのようなユーザーでも想像できる、ありふれた内容の指令でAIを使用した場合、AI利用者の創作的関与がないと見なされるため、生成物に著作権が発生するとは考えにくいです。しかし、それに対して、AI利用者が特定の生成物を生み出すために創意工夫を凝らした指令を基に生成物を作り出した場合、その指令やインプット行為に創作的関与が認められます。したがって、その生成物はAI利用者の著作物と見なされることになります。なお、Adobe Fireflyの状況を考えると、学習データセットとして使用されているAdobe Stockの画像データとの関連性により、AIが生成した作品が二次的著作物(著作権法第28条)となる可能性があります。

次に、Recolor vectorsやGenerative fillといった、既存の画像に対して加筆修正を行うケースを考えてみましょう。こちらのケースでは、多くの場合、加筆修正行為に創作性があると認められます。その結果、AIが生成した作品は、加筆修正前の作品の二次的著作物として著作権法上扱われ、AI利用者は二次的著作物の著作者としての権利を有することになります。

4.Adobe Fireflyを利用する際の注意点

Adobe Fireflyは驚くほど便利な機能を提供していますが、利用者としては注意すべきポイントが存在します。

(1)指令入力時の注意点

特に重要なのは、指令を入力する際に特定の著作物を連想させる内容を避けることです。先ほど説明したように、Adobe社の方針として、既存の著作物に類似する作品を生成することを意図して指令を出すことは禁止されています。そのため、「甲冑を着たアンパンマン」のような、既存の作品のキャラクター名を含む指令や、「青いネコ型ロボット」のような、特定の第三者の作品のキャラクターを連想させる指令は、Adobe社の規約に違反する可能性があります。これが結果としてAdobe社からの利用制限につながる可能性もあります。

更に、AIが生成した作品が特定の第三者の作品と類似していた場合、著作権侵害の疑問も生じます。

AIによる著作権侵害の要件は主に以下の3つです:

  1. 権利者の作品(被侵害品)と生成物が表現において類似していること
  2. AI生成者(AI利用者)が被侵害品に依拠していること
  3. AI生成者による利用行為(複製・翻案など)

多くの著作権侵害のケースは、AIが生成した作品が既存の著作物に似ていて、それが著作物の複製等を行ったと外見上認められる場合です。

したがって、AIが生成した作品が著作権侵害として違法になるか否かは、主に第2の要素である依拠の有無の問題です。

著作権法上、「依拠」とは「他人の著作物に接触し、それを自己の作品に用いること」とされています。この場合、他人の著作物にアクセスしたかどうかが重要です。

Adobe Fireflyに関しては、学習用データセットに第三者の作品が無断で混じっていないため、指令の過程で、利用者が著作権者の作品に接触したかどうかが鍵となります。

上記で挙げた指令の例では、指令の文面・内容から、特定の有名な第三者の作品を念頭に置いていることが明らかです。そのため、AI利用者が作品に接触したことはほぼ確認でき、結果として著作権侵害が認定される可能性が高いです。

そのため、Adobe Fireflyを使用する際は、特定の著作権者の作品を連想させる内容を指令としないように注意が必要です。また、意図的に特定の著作権者の作品に類似した作品をAIで生成することも、Adobe社の規約と著作権法の観点から避ける必要があります。

これを避けるための指令の例としては、「甲冑を着た、頭がパンでできている人間」や「猫の形をしたロボット」などが考えられます。

(2)画像を利用する際の注意点

Adobe Fireflyを用いて作成済み画像を修正する場合には、作成済み画像が自分の作品であるかどうか、他人の作品である場合にはそれらの改変による利用について許諾を取っているかどうかを確認することが必要です。

他人の画像を利用してAIを通じて改変して生成することは二次利用になるので原作品の権利者の許諾なく二次利用をすることは著作権法に違反する形になります。また、Adobe社は第三者の権利に属する作品を権利者に無断でインプットに用いることを規約で禁止しているのでその点からも、第三者の作品をインプットしたり、改変元として利用するのは避けるべきです。

したがって、もしこれらの機能を利用して生成AIを作る場合には自分で創作した作品かもしくはAdobe Fireflyその他のAIツールで生成した作品をもとの画像に利用することが適切であると考えられます。

5.Adobe Fireflyや生成AIのことでご不明な点があれば前田拓郎法律事務所へ

Adobe FireflyはAIと創造性が出会う場所です。でも、この新しいツールを使って作るとき、法律の問題に注意が必要です。

今回はAdobe Fireflyの特徴と可能性、利用の際の注意点について説明いたしました。Adobe Fireflyを用いればText to Image、Text Effects、Recolor Vectors、Generative Fillなどの機能で、あなたの創造力を形にすることができます。各特徴を理解し、適切に使えば、新しい表現の世界が広がります。しかし、Adobe Fireflyを使うときには法律の問題に注意が必要です。

具体的には、著作権法やAdobeの規約に従うこと、作ったものが他の作品を想起させるかもしれないこと、著作権が生じるかどうかなどです。これらを理解し、適切に対応することが大切です。

もっとも、法律は複雑で理解するのが困難なことも多いです。その際はぜひ前田拓郎法律事務所にご相談ください。弊所では、AIと法律の専門家があなたの問題を解決するためのアドバイスを提供します。

弊所はあなたが創造性を法律に束縛されることなく発揮できるように支えます。また、あなたがAIを使いたいとき、その可能性を最大限に引き出すための法律の知識を提供します。

何かわからないことや困ったことがあれば、どんなことでもお気軽に弊所に相談してください。弊所は、あなたが安心してAdobe Fireflyを使い、創造性を十分に発揮できるようにサポートします。あなたの創造的な冒険が、法律の壁に阻まれることがないように、前田拓郎法律事務所は全力で支援します。

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